突発やプレイ日記を書き逃げする雑記帳。
未完結品多し。
ネタバレ満載警報発令中~。
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終盤のネタバレ祭り。
更に神社関連コミュのネタバレもありです。
ゲーム内日付的には12月13日(日)。
ゲーム進行が此処まで来ていない方は、即座に回れ右。
「朝っぱらから、出掛けんのか?」
十二月半ばの日曜日。
風花と話しながらラウンジへ降りてきた伊織は、玄関の硝子から差し込む光の中に見慣れた人影を見留め、声を掛けた。
幸いにしてイヤホンを外していた人影は、未だ表情に暗い色彩を滲ませた二人へと振り向いた。
「明日から期末だよ? 勉強は……」
「昨日までに範囲の復習済んでるからね」
遠目からでも充血していると分かる不安げな瞳の少女に、安心させるよう穏やかな笑みを返す。
「すっげー……」
伊織は二人の会話に乗り切れず、諦め気味の溜息を吐いた。
「で、ドコ行くんだ? 店寄んなら、なんか買ってきてくれよ」
「神社。徹夜用の非常食だろ? 巖戸台の商店街で良かったら、適当に買ってくるよ。じゃ、行ってくる」
言い終わる前に開かれた扉から溢れる光に飲まれるように、彼の姿は白い闇に溶けていく。
「……神社? このクソさみーのに?」
訝しげに呟かれた伊織の声は、扉が閉まる軋み音に掻き消された。
シャラシャラと鈴を鳴らし、礼儀正しく二拝二拍手一拝を捧げる柏手の音が、シンとした境内に響き渡る。
参拝を終え歩き出した靴音が、硬質な音を響かせる石畳から土を踏みしめる音に変わり、境内の隅にぽつんと佇むベンチの前で唐突に止んだ。
「やあ、お待たせ」
白い息に親しみの混じった眼差しを混ぜ、ベンチの左側に腰を下ろす。
「すっかり冷え込んできたね。クリスマスも、もう間近だ」
ポケットからカイロ代わりに入れていた缶コーヒーを取り出し、プルトップを開ける。
缶の口を吹くと、コーヒーの香りを含んだ白い蒸気が広がった。
「初めて会ったのは、たしか初夏の頃だったよね。あの頃はまだ舞子ちゃんも居て、賑やかだったなぁ」
遠くへ引っ越してしまった愛らしい少女の面影に笑み零し、一口啜る。
金属臭が微かに混じる熱が、冷え切った体にじんわりと染みた。
「まともに話をしたのは……そう、残暑の頃だ。ひぐらしがうるさかったっけ」
思い出を探るように目を細め、遠い街並みを眺めやる。
先程までよりずっと白さが増した吐息に、ビルの影が淡く霞んで見えた。
靄が消えるまでを見届け、微かに湯気を立ち上らせる缶の口へ視線を落とし。
「あれから、随分になるね」
ぽつり呟き、もう一口。
ゆっくりと味を確かめ緩く息を吐き出すと、彼はそっと瞳を閉じた。
「笑っちゃうような世界の秘密、教えてあげるよ」
ベンチの背もたれに寄りかかり、透き通る冬空を見上げる。
自嘲気味の笑みを浮かべ、もう一度吐き出した吐息は。白い霞は。
震えていた。
今この時も表情一つ陰らせぬ彼の、それが本心。
「次の春は来ないんだって」
声なき言葉。
自身に言い聞かせるように囁いて、目を細める。
彼の瞳に映るのは、薄く筆で凪いだような、仄白い雲のベールを纏った冬の空。
「皆、平等に滅ぶんだって」
雲を、空を越えて、その向こう側を透かし見ようと目を凝らす。
その向こうに、人懐こい笑みを浮かべた泣きぼくろの同級生が佇んでいないかと。
寂しげな目をした幼い少年が、自分の様子を窺っていないかと。
空を見上げる彼の横で、ベンチにそっと下ろした缶が、コトリ、と小さな音を響かせた。
まるで、ここが現実であると知らしめるように。
どれ程祈ろうとも、叶わぬものがあるのだと……告げるように。
「その宣告を聞いた時、一番に君の事を思い出したんだ」
空から、右隣へ視線を移す。
彼の瞳には、誰も居ない古びたベンチが映っていた。
――君は僕に会うために生きてきた。
僕は君に会うために生きてきた。
「それなら……」
暗く沈んだ心を払うようにゆっくりと息を付いて、“隣に佇む青年”を視る。
か弱く笑う、頬の痩けた青年が、前髪の合間に覗く瞳に像を結んだ。
「僕は彼に会うためにこの街へ還ってきた……っていうのも、アリだよね」
冬の穏やかな日差しに透ける青年の瞳の中で、彼の口元がふうわりと綻んだ。
「彼が、僕に会いに来たように」
子供の姿で。
同級生の姿で。
“彼”は“僕”に会いに来た。
「ここへは、弱音を吐きに来たんだけどね。でも……」
缶を持ち上げ、温くなった残りを一気に飲み干す。
真夏の日差しを避けるようにここへ座っていた彼のように、誰にも言えない言葉を吐き出すつもりで来たのだけれど。
そんな必要は無かったのだと、気付いた。
ここへ来て。ベンチに佇む彼を視て。
「もう、答えは決まってるんだ」
初めから迷いなど無かったのだと……気付いた。
ただ、自覚が足りなかっただけだったのだ。
「そもそも、世界を滅びるに任せちゃったら、君が生きた証が消えてしまう」
僕の心に遺した証が、消えてしまう。
「君と居た記憶も、ね」
空き缶を両手で玩びながら、彼は隣へ微笑みかけた。
残暑の頃と、同じように。
「応援、しててよ」
彼は缶を置いて立ち上がると、青年がいつも座っていた場所の前にしゃがみ込んだ。
雨の掛からないベンチの下を素手で丁寧に掘っていくと、ポケットから取り出したおみくじに包まれていた小さな欠片を落とし込んだ。
穴の中には、他にも同じ造りのお守りが見え隠れしている。
彼はおみくじをポケットに仕舞うと丁寧に穴を埋め、缶を手に立ち上がった。
「それじゃ、また」
――ああ、またね。僕は何時でも此処に居るから……。
「今度は、花見をしようね」
瞼の裏で穏やかに微笑む青年へと、振り返ることなくポツリと告げ。
冬の穏やかな日差しの中、彼は無人の境内を後にした。
更に神社関連コミュのネタバレもありです。
ゲーム内日付的には12月13日(日)。
ゲーム進行が此処まで来ていない方は、即座に回れ右。
「朝っぱらから、出掛けんのか?」
十二月半ばの日曜日。
風花と話しながらラウンジへ降りてきた伊織は、玄関の硝子から差し込む光の中に見慣れた人影を見留め、声を掛けた。
幸いにしてイヤホンを外していた人影は、未だ表情に暗い色彩を滲ませた二人へと振り向いた。
「明日から期末だよ? 勉強は……」
「昨日までに範囲の復習済んでるからね」
遠目からでも充血していると分かる不安げな瞳の少女に、安心させるよう穏やかな笑みを返す。
「すっげー……」
伊織は二人の会話に乗り切れず、諦め気味の溜息を吐いた。
「で、ドコ行くんだ? 店寄んなら、なんか買ってきてくれよ」
「神社。徹夜用の非常食だろ? 巖戸台の商店街で良かったら、適当に買ってくるよ。じゃ、行ってくる」
言い終わる前に開かれた扉から溢れる光に飲まれるように、彼の姿は白い闇に溶けていく。
「……神社? このクソさみーのに?」
訝しげに呟かれた伊織の声は、扉が閉まる軋み音に掻き消された。
シャラシャラと鈴を鳴らし、礼儀正しく二拝二拍手一拝を捧げる柏手の音が、シンとした境内に響き渡る。
参拝を終え歩き出した靴音が、硬質な音を響かせる石畳から土を踏みしめる音に変わり、境内の隅にぽつんと佇むベンチの前で唐突に止んだ。
「やあ、お待たせ」
白い息に親しみの混じった眼差しを混ぜ、ベンチの左側に腰を下ろす。
「すっかり冷え込んできたね。クリスマスも、もう間近だ」
ポケットからカイロ代わりに入れていた缶コーヒーを取り出し、プルトップを開ける。
缶の口を吹くと、コーヒーの香りを含んだ白い蒸気が広がった。
「初めて会ったのは、たしか初夏の頃だったよね。あの頃はまだ舞子ちゃんも居て、賑やかだったなぁ」
遠くへ引っ越してしまった愛らしい少女の面影に笑み零し、一口啜る。
金属臭が微かに混じる熱が、冷え切った体にじんわりと染みた。
「まともに話をしたのは……そう、残暑の頃だ。ひぐらしがうるさかったっけ」
思い出を探るように目を細め、遠い街並みを眺めやる。
先程までよりずっと白さが増した吐息に、ビルの影が淡く霞んで見えた。
靄が消えるまでを見届け、微かに湯気を立ち上らせる缶の口へ視線を落とし。
「あれから、随分になるね」
ぽつり呟き、もう一口。
ゆっくりと味を確かめ緩く息を吐き出すと、彼はそっと瞳を閉じた。
「笑っちゃうような世界の秘密、教えてあげるよ」
ベンチの背もたれに寄りかかり、透き通る冬空を見上げる。
自嘲気味の笑みを浮かべ、もう一度吐き出した吐息は。白い霞は。
震えていた。
今この時も表情一つ陰らせぬ彼の、それが本心。
「次の春は来ないんだって」
声なき言葉。
自身に言い聞かせるように囁いて、目を細める。
彼の瞳に映るのは、薄く筆で凪いだような、仄白い雲のベールを纏った冬の空。
「皆、平等に滅ぶんだって」
雲を、空を越えて、その向こう側を透かし見ようと目を凝らす。
その向こうに、人懐こい笑みを浮かべた泣きぼくろの同級生が佇んでいないかと。
寂しげな目をした幼い少年が、自分の様子を窺っていないかと。
空を見上げる彼の横で、ベンチにそっと下ろした缶が、コトリ、と小さな音を響かせた。
まるで、ここが現実であると知らしめるように。
どれ程祈ろうとも、叶わぬものがあるのだと……告げるように。
「その宣告を聞いた時、一番に君の事を思い出したんだ」
空から、右隣へ視線を移す。
彼の瞳には、誰も居ない古びたベンチが映っていた。
――君は僕に会うために生きてきた。
僕は君に会うために生きてきた。
「それなら……」
暗く沈んだ心を払うようにゆっくりと息を付いて、“隣に佇む青年”を視る。
か弱く笑う、頬の痩けた青年が、前髪の合間に覗く瞳に像を結んだ。
「僕は彼に会うためにこの街へ還ってきた……っていうのも、アリだよね」
冬の穏やかな日差しに透ける青年の瞳の中で、彼の口元がふうわりと綻んだ。
「彼が、僕に会いに来たように」
子供の姿で。
同級生の姿で。
“彼”は“僕”に会いに来た。
「ここへは、弱音を吐きに来たんだけどね。でも……」
缶を持ち上げ、温くなった残りを一気に飲み干す。
真夏の日差しを避けるようにここへ座っていた彼のように、誰にも言えない言葉を吐き出すつもりで来たのだけれど。
そんな必要は無かったのだと、気付いた。
ここへ来て。ベンチに佇む彼を視て。
「もう、答えは決まってるんだ」
初めから迷いなど無かったのだと……気付いた。
ただ、自覚が足りなかっただけだったのだ。
「そもそも、世界を滅びるに任せちゃったら、君が生きた証が消えてしまう」
僕の心に遺した証が、消えてしまう。
「君と居た記憶も、ね」
空き缶を両手で玩びながら、彼は隣へ微笑みかけた。
残暑の頃と、同じように。
「応援、しててよ」
彼は缶を置いて立ち上がると、青年がいつも座っていた場所の前にしゃがみ込んだ。
雨の掛からないベンチの下を素手で丁寧に掘っていくと、ポケットから取り出したおみくじに包まれていた小さな欠片を落とし込んだ。
穴の中には、他にも同じ造りのお守りが見え隠れしている。
彼はおみくじをポケットに仕舞うと丁寧に穴を埋め、缶を手に立ち上がった。
「それじゃ、また」
――ああ、またね。僕は何時でも此処に居るから……。
「今度は、花見をしようね」
瞼の裏で穏やかに微笑む青年へと、振り返ることなくポツリと告げ。
冬の穏やかな日差しの中、彼は無人の境内を後にした。
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