突発やプレイ日記を書き逃げする雑記帳。
未完結品多し。
ネタバレ満載警報発令中~。
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6の続き。
長男次男モノ後半。
おおよそ女性向け。
形ばかりのノックでさっさと入った執務室は、当然ながら無人だった。
後ろ手に扉を閉めながら、滅多に来ないシンクの部屋をぐるりと見渡す。
地下故に窓のない室内は、少々暗いながらも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「ふうん、結構インテリアとか凝る方なんだ。仕事ばっかで無頓着かと思ってたのに」
感心したように呟きながら、本棚や机へ視線を走らせる。
「うわ、戦史とか戦術指南書ばっかり。つまんないの。でもこのペン立て良いなぁ、何処のだろ」
彼にしては珍しく物珍しげに物色して回る。
御盆を手に一通り見て回ると、彼はやっと本来の目的を思い出した。
軽く深呼吸して続きの私室への扉をノックし、返事も待たずに扉を開ける。
「シンク、居る……」
一歩踏み込みベッドを見留めたところで、イオンは思わず立ち止まった。
苦しげな咳と浅い呼吸が聞こえてくる。
髪も当然下ろしたままで、汗ばんだ額に前髪が張り付いてしまっていた。
シンクが寝ているところも久しく見てはいなかったが、普段丈夫な次男が寝込んでいる事実を目の当たりにするまで、彼は全く実感出来ていなかったのだ。
今更どうしたものかと迷ううちに、シンクが微かに身動ぎした。
熱に浮かされとろりとした瞳を向けられて、ビクリと肩を振るわせる。
「え、えっと……。僕は――」
「……イオン…………?」
(え?)
“名前”を呼ばれ、思わず言い訳を飲み込んだ。
シンクが“イオン”と呼ぶのは、三男に対してだけである。
長兄は、シンクに名前で呼ばれた記憶など全くなかった。
覚えている限り、ただの一度も。
そして、兄弟間で間違われた事も一度たりともありはしない。
冗談かと半信半疑でシンクの顔を見つめ返すも、彼はぼんやりと見上げるばかり。
(本当の本当に間違えてるわけ? 僕と、イオンを?)
イオン――上のイオンは少し考え、作戦を変える事にした。
「御見舞いに来たんですよ。大丈夫ですか? シンク」
下のイオンの口調を真似、ベッドサイドへ歩き出す。
「食事貰ってきたんですよ。食べられますか?」
サイドボードへ御盆を置き、手近な椅子を引き寄せる。
思いの外容態が悪いらしいシンクを相手に意地悪するのもほんの少し悪いような気がしなくもないし、一度やってみたかった事を試す良い機会だと思い直したのだ。
(誰かの看病ってやってみたかったんだよね。いつも感染るからって誰の見舞いもさせてもらえないし、僕相手だと絶対無理だけど下のと間違えてる今ならチャンスじゃないか)
椀によそいながら、イオンは内心ほくそ笑んだ。
アリエッタ以外には全くする事のない“他人の世話を焼く”という行為に、シンクには悪いと思いつつもワクワクしていた。
「出てってよ。感染る、から……」
「大丈夫ですよ。それより、自分の心配をして下さい。薬飲まないと治るものも治りませんよ」
シンク相手にお小言を言う。
そんな事にほんのちょっぴり優越感を覚えながら、蓮華に息を吹きかけて冷ましてみる。
(こんなもんかな? よく分からないけど)
「はい、シンク」
「……置いといて。後で……食べるから」
「そんな事言って食べないつもりでしょう。駄目ですよ、ほら口開けて」
自分が普段言われている説教を返しながら、無理矢理口元に運んでやる。
これで駄目だったらどうやって食べさせようかと考えてた時――
(あ。……食べた)
空いた蓮華を見つめて惚ける事数秒。
何となく気恥ずかしくなって、気を紛らわせるように椀の中身をかき混ぜる。
(なんか……なんかなんか本当に弟みたいでちょっと良いかも)
事実本当に弟なのだが。
妙に感動を覚えてしまったイオンは、自分が看病されていた時のことを思い出しながら、彼なりに一生懸命に世話を焼いた。
「シンク、夕飯は何が良い? ……ですか?」
水差しと椀を片付けながら視線を落とす。
潤んだ瞳に見上げられ、何時バレるかと冷や冷やしながらも素知らぬ顔をし続けていた。
「いい加減出てってよ。感染ったら、誰が看病すると……思ってんの?」
「その時は、シンクにお願いしますね」
下のイオンの真似をしてニコリと微笑みかけてみせると、シンクは憮然とした表情で視線を外した。
(照れた。そういえば、下のにだけは優しいんだよね。やっぱ可愛げ?)
「お前の導師守護役、やかましいんだからさ。感染らないでよね」
微妙に棘の少ない毒舌を聞き流しながら少しばかり物思いに耽っていたイオンは、意を決して声を掛けた。
「シンク、僕のこと好きですか?」
「……なんで、そんなこと聞くのさ」
「いえ、ちょっと気になっただけです。で、どうなんですか?」
「…………知らないよ」
はぐらかした。
その意味をイオンが知らないはずはなく。
(なんか、ムカツク。なんで下のがそんなにいいわけ?)
独占欲の強い長兄は、分かっていたはずの答えを前に一気に機嫌を悪くした。
「じゃあさ、じゃあ僕……上のイオンの事はどう思ってるわけ?」
むくれたまま、すっかり地が出た口調で問いかける。
しかし、幸いにもシンクの判断力は全く働いていなかった。
ぼーっと虚空を見つめたまま数秒。
そのまま寝返りをうって背を向けてしまったシンクへ刺すような視線を向ける。
「ねえ、シンク――」
「……嫌いじゃ、ない」
殆ど声にもならないような呟きに、イオンは突然取り乱したように立ち上がった。
傍の御盆を取り上げ、慌ただしく扉へ駆ける。
「あ、えっと……。お大事に。早く治して……下さいね」
つっかえつっかえそれだけ告げると、イオンは足早にシンクの部屋を後にした。
(……ビックリ、した…………)
隣の執務室に入ったところで、扉に背を預けたままずるずるとへたり込んだ。
まさかあんな返事が返るとは、問いかけた本人こそ考えもしなかったのだ。
ひねくれ者の次男が素直な返事を返すわけがない事は三男の質問で実証済みだが、嫌われているくらいに思っていた自分に対して(多分)好意的な答えが返るとは予想だにしなかった。
なかなか返事をしなかったのも、背を向けたのも……。
(こっちの方が照れるじゃないか、馬鹿シンク)
傍らに盆を置き、火照った頬にそっと触れる。
「治ったら、ちょっとは優しくしてやってもいい……かな」
防音の聞いた執務室に響いた呟きは、誰に聞かれる事もなく虚空に消えた。
普段から仲良し~なわけでもない兄弟に、面と向かってこういうこと言われると照れると思うんですが。
どうでしょう?
長男次男モノ後半。
おおよそ女性向け。
形ばかりのノックでさっさと入った執務室は、当然ながら無人だった。
後ろ手に扉を閉めながら、滅多に来ないシンクの部屋をぐるりと見渡す。
地下故に窓のない室内は、少々暗いながらも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「ふうん、結構インテリアとか凝る方なんだ。仕事ばっかで無頓着かと思ってたのに」
感心したように呟きながら、本棚や机へ視線を走らせる。
「うわ、戦史とか戦術指南書ばっかり。つまんないの。でもこのペン立て良いなぁ、何処のだろ」
彼にしては珍しく物珍しげに物色して回る。
御盆を手に一通り見て回ると、彼はやっと本来の目的を思い出した。
軽く深呼吸して続きの私室への扉をノックし、返事も待たずに扉を開ける。
「シンク、居る……」
一歩踏み込みベッドを見留めたところで、イオンは思わず立ち止まった。
苦しげな咳と浅い呼吸が聞こえてくる。
髪も当然下ろしたままで、汗ばんだ額に前髪が張り付いてしまっていた。
シンクが寝ているところも久しく見てはいなかったが、普段丈夫な次男が寝込んでいる事実を目の当たりにするまで、彼は全く実感出来ていなかったのだ。
今更どうしたものかと迷ううちに、シンクが微かに身動ぎした。
熱に浮かされとろりとした瞳を向けられて、ビクリと肩を振るわせる。
「え、えっと……。僕は――」
「……イオン…………?」
(え?)
“名前”を呼ばれ、思わず言い訳を飲み込んだ。
シンクが“イオン”と呼ぶのは、三男に対してだけである。
長兄は、シンクに名前で呼ばれた記憶など全くなかった。
覚えている限り、ただの一度も。
そして、兄弟間で間違われた事も一度たりともありはしない。
冗談かと半信半疑でシンクの顔を見つめ返すも、彼はぼんやりと見上げるばかり。
(本当の本当に間違えてるわけ? 僕と、イオンを?)
イオン――上のイオンは少し考え、作戦を変える事にした。
「御見舞いに来たんですよ。大丈夫ですか? シンク」
下のイオンの口調を真似、ベッドサイドへ歩き出す。
「食事貰ってきたんですよ。食べられますか?」
サイドボードへ御盆を置き、手近な椅子を引き寄せる。
思いの外容態が悪いらしいシンクを相手に意地悪するのもほんの少し悪いような気がしなくもないし、一度やってみたかった事を試す良い機会だと思い直したのだ。
(誰かの看病ってやってみたかったんだよね。いつも感染るからって誰の見舞いもさせてもらえないし、僕相手だと絶対無理だけど下のと間違えてる今ならチャンスじゃないか)
椀によそいながら、イオンは内心ほくそ笑んだ。
アリエッタ以外には全くする事のない“他人の世話を焼く”という行為に、シンクには悪いと思いつつもワクワクしていた。
「出てってよ。感染る、から……」
「大丈夫ですよ。それより、自分の心配をして下さい。薬飲まないと治るものも治りませんよ」
シンク相手にお小言を言う。
そんな事にほんのちょっぴり優越感を覚えながら、蓮華に息を吹きかけて冷ましてみる。
(こんなもんかな? よく分からないけど)
「はい、シンク」
「……置いといて。後で……食べるから」
「そんな事言って食べないつもりでしょう。駄目ですよ、ほら口開けて」
自分が普段言われている説教を返しながら、無理矢理口元に運んでやる。
これで駄目だったらどうやって食べさせようかと考えてた時――
(あ。……食べた)
空いた蓮華を見つめて惚ける事数秒。
何となく気恥ずかしくなって、気を紛らわせるように椀の中身をかき混ぜる。
(なんか……なんかなんか本当に弟みたいでちょっと良いかも)
事実本当に弟なのだが。
妙に感動を覚えてしまったイオンは、自分が看病されていた時のことを思い出しながら、彼なりに一生懸命に世話を焼いた。
「シンク、夕飯は何が良い? ……ですか?」
水差しと椀を片付けながら視線を落とす。
潤んだ瞳に見上げられ、何時バレるかと冷や冷やしながらも素知らぬ顔をし続けていた。
「いい加減出てってよ。感染ったら、誰が看病すると……思ってんの?」
「その時は、シンクにお願いしますね」
下のイオンの真似をしてニコリと微笑みかけてみせると、シンクは憮然とした表情で視線を外した。
(照れた。そういえば、下のにだけは優しいんだよね。やっぱ可愛げ?)
「お前の導師守護役、やかましいんだからさ。感染らないでよね」
微妙に棘の少ない毒舌を聞き流しながら少しばかり物思いに耽っていたイオンは、意を決して声を掛けた。
「シンク、僕のこと好きですか?」
「……なんで、そんなこと聞くのさ」
「いえ、ちょっと気になっただけです。で、どうなんですか?」
「…………知らないよ」
はぐらかした。
その意味をイオンが知らないはずはなく。
(なんか、ムカツク。なんで下のがそんなにいいわけ?)
独占欲の強い長兄は、分かっていたはずの答えを前に一気に機嫌を悪くした。
「じゃあさ、じゃあ僕……上のイオンの事はどう思ってるわけ?」
むくれたまま、すっかり地が出た口調で問いかける。
しかし、幸いにもシンクの判断力は全く働いていなかった。
ぼーっと虚空を見つめたまま数秒。
そのまま寝返りをうって背を向けてしまったシンクへ刺すような視線を向ける。
「ねえ、シンク――」
「……嫌いじゃ、ない」
殆ど声にもならないような呟きに、イオンは突然取り乱したように立ち上がった。
傍の御盆を取り上げ、慌ただしく扉へ駆ける。
「あ、えっと……。お大事に。早く治して……下さいね」
つっかえつっかえそれだけ告げると、イオンは足早にシンクの部屋を後にした。
(……ビックリ、した…………)
隣の執務室に入ったところで、扉に背を預けたままずるずるとへたり込んだ。
まさかあんな返事が返るとは、問いかけた本人こそ考えもしなかったのだ。
ひねくれ者の次男が素直な返事を返すわけがない事は三男の質問で実証済みだが、嫌われているくらいに思っていた自分に対して(多分)好意的な答えが返るとは予想だにしなかった。
なかなか返事をしなかったのも、背を向けたのも……。
(こっちの方が照れるじゃないか、馬鹿シンク)
傍らに盆を置き、火照った頬にそっと触れる。
「治ったら、ちょっとは優しくしてやってもいい……かな」
防音の聞いた執務室に響いた呟きは、誰に聞かれる事もなく虚空に消えた。
普段から仲良し~なわけでもない兄弟に、面と向かってこういうこと言われると照れると思うんですが。
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