突発やプレイ日記を書き逃げする雑記帳。
未完結品多し。
ネタバレ満載警報発令中~。
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「あー疲れたぁ」
ホットカーペットの上に座り込んで時計を見上げる。
時刻は23時の直ぐ手前。
12月23日23時前――クリスマス・イヴまでカウントダウンもいいところ。
「流石に、ちょっと滅入るわね……」
彼女は、投げ出したバッグを引き寄せ携帯を確認しながらひとりごちた。
【 The previous night 】
12月24日といえば、街中が浮かれ騒ぐクリスマス・イヴ。
しかし、彼と甘いひとときを過ごすなど彼女には夢のまた夢。
自分だって社会人なのだから、「仕事と私とどっちが大事?」などと幼稚な事を聞くつもりは無いし、彼女自身仕事の都合でデートの約束をキャンセルしたこともある。
彼の仕事を尊重するし、尊敬もしている。
だが。
彼の職業は……パティシエなのである。
クリスマスはケーキ業界にとって最も大事なかき入れ時。
製造工場を持つ大手ならともかく、個人店はこの時期想像を絶する程の仕事量に見舞われるという。
日持ちのするケーキから下準備を始めるとしても、売れるのはイヴ当日のみなのだから、当然と言えば当然なのだが。
彼と彼女のイヴ事情は、七夕伝説ほどの僅かな可能性さえ持たないのである。
「今日はメールも来ないか……」
弱々しくため息をつき携帯をテーブルに置いて、シャワーでも浴びようかと立ち上がったその時。
携帯が鳴った。
それもメール着信ではなく、彼からの…………。
手短な連絡に、彼女はコートを羽織りつつ即答した。
24時直前。
彼女は電車を乗り継いで、彼が勤めるケーキショップの裏口へと辿り着いた。
「悪いな、こんな時間に」
「それはいいんだけど、時間大丈夫なの?」
「ホントは殆ど無い。でも、この後は完璧に無理だからさ」
チョコやバターのシミが付いたエプロン姿の彼は、そう言いつつ足早に店員休憩室まで彼女を案内した。
「あんま場所無いけど、そこ掛けて」
雑然とした部屋の隅に置かれた小さなテーブルに案内され、勧められるままに椅子に座る。
他の店員は作業中なのだろう、厨房と思わしき方向から忙しない会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
彼女が物珍しげに周りを見回していると、彼は腕時計を確認しつつ小振りの箱を持ってきた。
「そろそろ時間かな……」
彼女の目の前に、壊れ物を扱うような手つきで小さな箱が置かれた。
よく切り売りのケーキを入れるのに使われる、少し固めの紙の箱。
彼女が興味深げに見つめる前で、彼はそっと箱を開いてみせた。
箱の形状と彼の職種からして大方の予想は付いていたのだが……。
「わぁ……」
平坦に広がる仕様の、箱だった紙皿の上には、精緻にデコレーションされた小さなケーキ。
白クリームを巻き込んだチョコ生地のロールケーキ。
上に置かれた小さなチョコレートの家の傍には、飴の糸を束ねたような屋根より高い金色のツリー。
ロールケーキの足元には、綻ぶような淡い桃色のクリームのバラが咲き乱れている。
そして、全体に申し訳程度に降りかかる粉砂糖の雪……。
「今年一番の自信作だと思うんだけど。どうだ?」
向かいからの囁くような問いかけに答えるのは、やや上気した潤んだ瞳。
「凄い綺麗……食べるのが勿体ないくらい」
「いや、食わないと意味無いだろ」
乙女チックな感想にすかさず入るツッコミは、食品製造業の性だろうか。
彼は気を取り直すように咳払いなどすると、ポケットから携帯を取り出して画面を示した。
「0時2分過ぎ。……24日の早朝深夜のクリスマス・イヴってのは、ナシか?」
「…………アリだと思う」
別にキリスト教徒ではないふたりなのだから、細かい時間など関係ない。
この日のひとときを、ふたりきりで過ごせるならばそれでいい。
彼が用意したフォークをふたりでカチリと鳴らし――
「「Merry Christmas!」」
ホットカーペットの上に座り込んで時計を見上げる。
時刻は23時の直ぐ手前。
12月23日23時前――クリスマス・イヴまでカウントダウンもいいところ。
「流石に、ちょっと滅入るわね……」
彼女は、投げ出したバッグを引き寄せ携帯を確認しながらひとりごちた。
【 The previous night 】
12月24日といえば、街中が浮かれ騒ぐクリスマス・イヴ。
しかし、彼と甘いひとときを過ごすなど彼女には夢のまた夢。
自分だって社会人なのだから、「仕事と私とどっちが大事?」などと幼稚な事を聞くつもりは無いし、彼女自身仕事の都合でデートの約束をキャンセルしたこともある。
彼の仕事を尊重するし、尊敬もしている。
だが。
彼の職業は……パティシエなのである。
クリスマスはケーキ業界にとって最も大事なかき入れ時。
製造工場を持つ大手ならともかく、個人店はこの時期想像を絶する程の仕事量に見舞われるという。
日持ちのするケーキから下準備を始めるとしても、売れるのはイヴ当日のみなのだから、当然と言えば当然なのだが。
彼と彼女のイヴ事情は、七夕伝説ほどの僅かな可能性さえ持たないのである。
「今日はメールも来ないか……」
弱々しくため息をつき携帯をテーブルに置いて、シャワーでも浴びようかと立ち上がったその時。
携帯が鳴った。
それもメール着信ではなく、彼からの…………。
手短な連絡に、彼女はコートを羽織りつつ即答した。
24時直前。
彼女は電車を乗り継いで、彼が勤めるケーキショップの裏口へと辿り着いた。
「悪いな、こんな時間に」
「それはいいんだけど、時間大丈夫なの?」
「ホントは殆ど無い。でも、この後は完璧に無理だからさ」
チョコやバターのシミが付いたエプロン姿の彼は、そう言いつつ足早に店員休憩室まで彼女を案内した。
「あんま場所無いけど、そこ掛けて」
雑然とした部屋の隅に置かれた小さなテーブルに案内され、勧められるままに椅子に座る。
他の店員は作業中なのだろう、厨房と思わしき方向から忙しない会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
彼女が物珍しげに周りを見回していると、彼は腕時計を確認しつつ小振りの箱を持ってきた。
「そろそろ時間かな……」
彼女の目の前に、壊れ物を扱うような手つきで小さな箱が置かれた。
よく切り売りのケーキを入れるのに使われる、少し固めの紙の箱。
彼女が興味深げに見つめる前で、彼はそっと箱を開いてみせた。
箱の形状と彼の職種からして大方の予想は付いていたのだが……。
「わぁ……」
平坦に広がる仕様の、箱だった紙皿の上には、精緻にデコレーションされた小さなケーキ。
白クリームを巻き込んだチョコ生地のロールケーキ。
上に置かれた小さなチョコレートの家の傍には、飴の糸を束ねたような屋根より高い金色のツリー。
ロールケーキの足元には、綻ぶような淡い桃色のクリームのバラが咲き乱れている。
そして、全体に申し訳程度に降りかかる粉砂糖の雪……。
「今年一番の自信作だと思うんだけど。どうだ?」
向かいからの囁くような問いかけに答えるのは、やや上気した潤んだ瞳。
「凄い綺麗……食べるのが勿体ないくらい」
「いや、食わないと意味無いだろ」
乙女チックな感想にすかさず入るツッコミは、食品製造業の性だろうか。
彼は気を取り直すように咳払いなどすると、ポケットから携帯を取り出して画面を示した。
「0時2分過ぎ。……24日の早朝深夜のクリスマス・イヴってのは、ナシか?」
「…………アリだと思う」
別にキリスト教徒ではないふたりなのだから、細かい時間など関係ない。
この日のひとときを、ふたりきりで過ごせるならばそれでいい。
彼が用意したフォークをふたりでカチリと鳴らし――
「「Merry Christmas!」」
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